学園都市と呼ばれるステージの前で、
小柄な少女と、特徴的な帽子の青年が立っていた。
「アラーニェちゃん、遅いね」
「他のゲームにいるんじゃない?」
「お約束の日に送れちゃうなんて!
らんらん待ちくたびれちゃったよ★
ガラくんも退屈じゃない?」
少女、らんらんが退屈そうに、愛らしく小さな欠伸を漏らす。
ガラくんと呼ばれた青年、ガラッシアも釣られて欠伸を一つ噛み殺した。
Ishの時間では、彼女達が待ち人と決めた時間からすでに一時間近く経っている。
「約束の時間から随分すぎたもん、
もう、ボク先に行っちゃうんだから!」
「待たなくていいの?」
「いーの★それどころか、後でお説教だよ!」
そう言うと、らんらんは跳ねる様な足取りで入り口へと向かう。
「それじゃ、ガラくん後でね♥」
そして可愛らしくウインクを一つ送ると入り口を潜り抜けた。
──── ヴン ────
電子的な効果音からワンテンポ遅れてピコッとらんらんの靴が鳴る。
少し薄暗いその場所には、彼女自身以外の人の気配がなく、
ただ、ピコピコと彼女の靴音だけが響く。
どこか不気味さを感じたらんらんは思わず、まるで寒さに震えるように自分の体を抱いた。
『ようこそ』
「・・・っ!」
不意に聞こえた声に思わず武器を構えた。
『おっと、僕は敵ではないんだ。それを引っ込めてくれないかな?』
少女に不釣合いな大きな槍の矛先に佇むのは少年とも少女とも取れる中世的な顔立ちの人物。
『僕はΦ。c.l.rの空集合。君はゲームへの参加者かな?』
「システム説明のNPCってコトかな?」
『まあ、そういう物と思ってくれて構わないよ』
「そう?ゴメンネ、らんらんってばびっくりしちゃった★」
特に問題が無さそうだと分かるとくるりと槍を回す。
一周周りきるかきらないかのうちに、それはひゅんと空に消えた。
「ゲームのルールは大体把握してるんだ★
招待状に添付してあったマニュアル読んだからね」
『それでは、今からキミの召喚獣を呼び出そう。
さあ、そこに立ってごらん』
Φが指したのは、暗い中にぼやりと光を湛えるサークル。
らんらんがファンタジーゲームのステージでよく見かける、所謂魔方陣だった。
「へぇ、こんなカンジなんだぁ!
だったらこっちの方が可愛いかな♥」
何かを思案した一瞬後にひゅんと空から現れたのは、
先に使った槍と良く似たデザインの、しかしハートやリボンで愛らしく装飾された杓丈。
それを手に取り、その場でくるりとターンをしてからポーズを決めた。
「ねえ、願い事って口頭で言わなきゃ駄目なのかな?
それともお祈りしたらいいの?」
『願い事が決まっているなら、好きにしてくれて構わないよ』
『さあ、君の願い事はなんだい?』
(らんらんの・・・ボクの、願いは・・・)
現実世界が嫌だった。
“正義のヒロイン”で居られるこの世界が好きだった。
ずっと「らんらん」で居たかった。
(誰にも言ってないけれど、ボクの願いはずっと決まってた)
「ボクの願いは“現実世界と仮想世界の完全なる入れ替え”
――この理想郷、Ishを現実の世界に!」
途端、魔方陣がまばゆい光を放った。
激しい風がらんらんのスカートをはためかせる。
そして、それが治まった時
彼女の目の前に1人の男の背があった。
その顔がゆっくりと振り向く。
「ここは・・・お嬢ちゃんは一体・・・」
驚いた顔をするこの壮年の男に、らんらんは幾度かぱちくりと瞬きをする。
「キミがらんらんの召喚獣?
召喚獣ってマスコットみたいなかわいーのだと思ってたんだけど、
思ったよりおっきいの出てきちゃった★」
「召喚?ますこっと?」
意味が分からないといった風な男に向かい、
らんらんはスカートの端をつまんで可愛らしく一礼した。
「はじめまして、ボクはらんらんだよ♥
キミのお名前は何ていうのかな?」
余談。
「えっと、アラーニェちゃんの召喚獣が、
白くてきらきらのマイ ブラッディ バレンタインちゃん」
「ええ、そうです」
「ガラくんの召喚獣が、
青くてきらきらのキルシュちゃん」
「うん、そうだよ」
「それで、らんらんの召喚獣がテンコくん。
・・・ねえ、らんらんの召喚獣だけ何だか雰囲気違うくなあい?」
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らんらん
テンコ(大和さん)
ガラッシア(久瀬さん)
アラーニェ(inu5400星人さん) |